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第9話 秘密のお茶会









「そう、子猫ちゃんは過去探しの旅をしているの」

そう言ってアシュラさんは新たに紅茶を注いだカップを渡してくれた。じんわりと手のひらに広がる温かさにほっとする。
一応私の名前は教えたのだが、呼び方を変えるつもりはないらしい。

アシュラさんの家はギルドが建ち並ぶ一画にあった。
二階建てだが一人で住んでも広すぎないくらいの広さで、一階の居間が吹き抜けになっている開放的な造りだ。
きちんと掃除も行き届いているし、アシュラさんから香る匂いとはまた違う少し甘くて大人な感じの香りが漂っていてとても心地いい。

火かき棒で暖炉にくべた薪を突いたアシュラさんは自分の席に着くと、ふぅとため息をついた。

「私はあまり賛成できないわね」

「どうして?」

「記憶喪失に陥る原因の多くは心因性、つまり、思い出したくないほどショックな出来事があったからでしょ。だったら、辛い記憶だった可能性のほうが高いわ。
…そう、思い出せば死んでしまいたくなるほどの辛い記憶…」

そこまで言ってアシュラさんはカップを傾けた。その優美な手つきに見惚れながら続いて私も紅茶を口に運ぶ。
暖炉の温かい光と美味しい紅茶のせいだろうか、なんだか体がふわふわする。

「もしそうだったら、子猫ちゃんのその小さな体じゃ抱えきれないんじゃない?」

悪戯っぽく細められた目から逃れるように、私は少しうつむいた。

失われた記憶がどんなものだったとしても、それに負けないくらい強くなると旅に出る前に誓った。
でもアシュラさんの言うとおり、それが死んでしまいたくなるほどの記憶だったら、私はきちんと受け入れることができるだろうか。
取り戻すそのときにならなければわからないことだが、そう考えると少し不安になってしまう。







「何より、男と二人旅してるってことが…というより、その男が気に食わない! 絶対子猫ちゃんのこと狙ってるわよその男!」

「え!? そ、それはないと思うけど…」

まだ出会って間もないというのもあるけれど今までそんな雰囲気になったことはないし、今日だって私がいるのに平然と着替え出すし、そもそも私は女として見られていないような気がする。
…それはそれで悲しい気もするが。一女子として。

否定してもなお、許せない! と言うアシュラさんがホタルと重なって思わず笑ってしまう。







――コウ、もう帰ってるかな。

随分長居してしまったようで、気づけばもう日暮れ方になっている。
何も言わずに出てきてしまったし、そろそろ帰らなければ。
それに、さっきからとても眠い。
変な夢を見たり衛兵にからまれたり、いろんなことがあったから疲れているのかもしれない。
明日はギルドに行くのだし、とりあえず帰って寝よう。

「あの、アシュラさん、私そろそろ――」







そう言って席を立とうとした瞬間、視界が揺らいだ。







ただの立ちくらみかと思ってしばらくじっとしていたのだが、次第に体が気だるくなり、机を持って支えていないと立っているのも儘ならない。

「ど…した…? …ねこちゃ…」

アシュラさんの声が遠くに聞こえる。
異様に重いまぶたを無理矢理開けようとしたが、そこで意識が途絶えた。



















「思い出さなくていいことだってあるのよ」


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