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第17話 ライバルは魔法使い?



「踏み込みが甘い、もっと脇を締めろ。
打った拳はすぐに戻すんだ」

言いながら、コウがレアの打ち込む拳を確実に捌いていく。

レアの足は約一週間ほどで完治した。
再開したギルドの仕事をこなす一方で、レアは以前約束した通り、コウに戦いの指南を受けている。
基礎体力増強も兼ねて、まずは体術を仕込まれることになったのだが、連日の特訓で筋肉痛はひどいし、打ち身も増える一方だった。
それでも、そんな日々にレアが充実感を覚えていたこともまた事実で。

飛んできた鋭い蹴りを短く呻吟しながらも辛うじて避けたレアは、すぐに体勢を立て直し攻撃に転じる。







コウは果敢に攻め込んでくるレアを見据えた。

非力なところは否めないが、それをカバーする機敏さと瞬発力があるし、呑み込みも早い。
ブラックウッドにいた頃、何度かホタルに手ほどきを受けたことがあるとレアは言っていたが、そのときに培ったものとは別の戦闘能力が彼女には潜在しているとコウは確信していた。
実際、先ほど指摘した箇所をすでに克服しつつある。

「一つ一つの動作が大き過ぎる。それじゃ隙だらけだ」

言って切れのあるフックをあっさり受け止めたコウは、がら空きになったレアの腹部に拳を叩き込んだ。

「ぅ…っ!」

手加減したとはいえコウの一撃は重く、レアの息が一瞬詰まる。
腹に響く痛みに顔を歪めながらよろよろと後退するレアを見たコウが、ふっと目を細めた。

「どうした、もうお仕舞いか?」

明らかに闘争心を煽ろうとしている言葉。
そうだとわかっていても、レアの頬は悔しさで朱に染まる。

「まっ…まだまだ…!」







「うっるさーい!!」







「人が必死に考えごとしてるってのに、大声出して邪魔しないでよね!」

二人の前に現れたのは、張りのある可愛らしい声をした黒髪の少女だった。
黒橡(くろつるばみ)色の大きな瞳が印象的で、身長はレアと同じくらいで小柄だ。

「しかもここ、うちのギルドの敷地でしょ!?
これだから脳筋っていや――」

切れ上がった目をさらにつり上げて捲し立てていた少女だったが、コウの顔を見た途端にフリーズした。
健康的な肌色の顔がみるみる上気していく。













「あ、ああああの!!
私、ヤユっていいます!
よろしければ、お名前教えていただけませんか?」

ヤユと名乗った少女は駆け寄り様にレアを押しのけてコウの前に立つと、その大きな瞳を潤ませながら小首を傾げた。
ヤユの気迫に珍しくコウもたじろぐ。

「あ、あぁ…コウだ。
『うちのギルド』という事は、君は魔術師なのか?」

「は、はい!」

「そうか。
すまない、少し騒々しかったようだな。
すぐに移動するから、気を悪くしないで欲しい」

「そんな、お気になさらないでください!
それに、こんな場所でよければいくらでも使ってください! 誰も使ってないですし!」

「ありがとう。
それなら続きを…――大丈夫か?」

「う、うん…」

コウに助け起こされて、レアがよろよろと立ちあがる。

それまで恍惚としていたヤユだったが、そんな二人の様子、もといレアを見ているうちにその顔はみるみる険しくなり、ついには不愉快極まりないといった風にぷうっと頬を膨らませた。







不意に踵を返したヤユが、草を踏みしだきながら歩き出した。
そして敷地内にある井戸の前で立ち止まると、鉄製の蓋を重そうに開いた。

訓練を再開しようと位置についたレアとコウだったが、井戸の中を真剣な面持ちで覗き込んだまま動かないでいるヤユが気になり、その動向を見守ることにした。







すると突然、ヤユが唸り出した。
その声音から、相当落胆し思い悩んでいることが窺い知れる。

しばらくして顔を上げ、意を決した表情で再び覗き込んではまた唸るという奇行を繰り返しているヤユに、二人は釘付けになるほかなかった。







レアたちの視線に気づいたヤユは、恥ずかしそうに頬を赤らめながら眉間に皺を寄せた。

「な、なによ…
ヤユはこの井戸に用があるの!」

「それはよくわかるんだけど…
水汲むんだったら手伝おうか?」

「み、水なんか汲まないわよ」

「…中に何か落としたのか?」

そうコウが尋ねると、ヤユの表情が花がほころんだようにぱあっと明るくなった。

「そ、そうなんです!
あぁ…やっぱりヤユのことわかってくれるのはコウ様だけです!
まぁ厳密に言うと、ヤユが落としたんじゃないんですけど…」

そう言って、ヤユはぽつりぽつりと話し出した。



ブレトンであるヤユは見習いの魔術師で、帝都にあるアルケイン大学に入学すべく、現在シロディール中を回っているらしい。
というのも、入学するには各都市の魔術師ギルドの推薦状が必要で、その推薦状も各々で出題される課題をクリアしないと書いてもらえないという。
そしてここシェイディンハルのギルドで出された課題が、ほかの見習い魔術師がこの井戸の中に落とした指輪を回収するというものなのだそうだ。

先ほどの奇行にはちゃんと意味があったのだとわかり、何故かレアはほっとした。







「…でも、ヤユ…」

自分の置かれた状況を話し終えたヤユが、不意にぼそりと呟く。

「………げ…いの」

その声はあまりにも小さく、時折頬を撫でるそよ風にさえかき消されるほどだ。
案の定聞き取れなかったレアは、何度か目を瞬かせた。

「…え?」

「だ、だから!
…およ…ないの

「…ごめん、ちょっと聞こえない――」

「あーもう! だから、ヤユ泳げないんだってば!!
何回言わせんのよ、あんた耳腐ってんじゃない!?」







「でも指輪は井戸の中だし…
あーもう、どうしろってのよ!」

言ってヤユは頭を抱えて苦悶する。

「…取ってきてあげようか?」

罵倒されて沈むレアの思いがけない提案に、ヤユは明らかに動揺していた。

「な、なんであんたにそんなことしてもらわなくちゃなんないのよ。
これはヤユの試験なんだから、口出ししないでよね!」

「でも、泳げないんでしょ?」

「う…」

痛いところを突かれてぐうの音も出ないヤユはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げると、腕を組んでふんっと鼻を鳴らした。

「ま、まぁ誰かの手を借りちゃいけないとは言われなかったし?
どーしてもっていうんなら取ってきてもいいよ」

「『取ってきてもいい』って…」

あくまで上から目線らしい。

行ってもいいか確認しようと、レアはコウを仰ぎ見た。
視線に気づいたコウもすぐにレアの方を見やったが、いつもなら自分で決めていいよと言うはずのその深緑色の瞳は、今はどこかはっきりしない様子である。

「…だめかな?」

「構わないが、レアは泳げるのか?」

「うーん…多分」

「はぁ?
『多分』ってなによ」

「記憶があるうちは泳いだことないんだけど、泳げない気がしないの」

妙に自信たっぷりなレアに、ヤユはその自信はどこから来るんだなんとかと毒づいた。
苦笑を浮かべたコウが不意に歩を進める。







「私が行こう」

「えっ!」

まさかの申し出に、レアは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「そんな、ヤユのために…!」

言ってヤユは胸の前で手をがっちり組み、恍惚とした表情でコウを見つめた。

引き受けると言い出したのは自分なのに、それをほかの誰かにお願いするなんて。
でもとどもるレアの心情を察知したコウが先に口を開いた。

「信用していないわけではないが、万が一という事があってからでは遅いだろう。
それに、先の組み手で相当体力を消耗しているはずだ。
今のうちに休んでおくといい」

そう言われたレアに反論する余地はなかった。
開きかけた口をつぐみ、代わりに微笑を湛える。

「ごめんね、ありがとう。
それじゃあ、お願いします」

レアの言葉に応えるかのように、コウはやんわりと微笑んだ。

井戸の傍まで来たコウは覗き込んで中の様子を確認すると、内壁に設えられた梯子を下りていった。
反響する靴音が次第に遠ざかり、辺りは穏やかな風に揺れる草花の音だけに包まれる。







仏頂面のヤユがおもむろに口を開いた。

「…で?
あんた、コウ様のなんなの?」

その黒橡の瞳は敵がい心に燃えている。

「えっ?
何って…」

質問の意図がわからずきょとんとしていたレアは、しばらくして首を捻った。

自分はコウの『何』だなんて、そんなこと考えたこともなかった。
仲は悪くないが『友達』とはちょっと違うと思うし、『相棒』というのもおこがましい気がする。

「…同伴者?」

「ヤユに聞かれても困るんだけど。
とにかく! あんたにコウ様は渡さないんだからね!」

「?
それってどういう意味?」

「ふんっ、とぼけたって無駄よ。
…ってゆーか、それも計算してるんでしょ!?
これだから、ふんわりキャラ装ってるヤツってヤなんだよねぇ。
いい? あんたが記憶喪失だろうがなんだろうが、容赦しないんだから!」

矢継ぎ早にそう言ったヤユは、とどめとばかりにびしぃっと人差し指を突き付けた。

渡すも何も、何故コウを取り合わないといけないのか。
とりあえず、ヤユが自分のことをよく思っていないことだけは理解したレアがしょんぼりしていると、鉄の棒を蹴る靴音が耳をかすめた。







ほどなくして、コウが井戸から出てきた。
長い睫毛やブロンズグレイの髪の先から水滴が滴り落ち、濡れた服が肌に張り付いて鍛え上げられた体の線が露わになっている。

顔にかかる髪をかきあげながら、コウは頬を朱に染めて見入っている二人に歩み寄った。

「君が探しているのはこの指輪か?」

差し出された手の中には、赤銅色の指輪が収まっている。

ようやく我に返ったヤユはどぎまぎしながら指輪を目視し、こくりと頷いた。

「ギルドの紋章が刻まれてるんで、それだと思います!
ありがとうございます、コウ様!」

「それは構わないんだが…
…手渡しても大丈夫か?」

「もちろんです!
なんなら、ヤユの左薬指にはめてくださっても…なぁんて、やだもう恥ずかしーい!」

「痛ッ!?」

どこか歯切れの悪いコウの様子を不思議に思っていたレアだったが、照れて一人騒いでいるヤユに張り倒され思案するのを中断した。

二人のやり取りに苦笑をこぼしたコウは再びヤユの方に向き直ると、念を押すような視線を投げかけた。
その調子は、やはりはっきりしない。

「…放すぞ?」

「はい――







――ぃやあぁあああぁッ!?」

「えぇっ!?
ど、どうしたの大丈夫!?」

コウから指輪を受け取った瞬間、ヤユは悲鳴を上げながらものすごい勢いで地べたに這いつくばった。
突然の出来事に思考が追いつかないレアだったが、指輪を受けた両手を下から思い切り引っ張られたか、もしくは上からとてつもない力がかかったように見えたのは確かだった。

「は、はやっ…! 早く、早く助けてー!!」

コウは地面に張り付いたまま絶叫するヤユの手から取り上げた指輪を投げ捨てた。
赤銅色の指輪はドスッと、装飾品とは思えない音を立てて地面にめり込む。

コウに助け起こされたヤユは肩で息をしながら、忌々しげに指輪を見て吠えた。

「なっ…なにこれ重ッ!?
肩脱臼するかと思った!!」

レアは恐る恐る指輪に近づき人差し指でつついてみたが、まるで石柱の如くびくともしない。
もし本当にはめていたら、ヤユの細い指など小枝が折れるように一瞬で粉砕していただろう。
コウが渡すのを渋っていた理由がわかった。







「――指輪の重量の事は聞かされていなかったのか?」

真剣な眼差しを向けるコウに問われ、ヤユはこくりと頷く。

「は、はい。指輪を取ってこいとしか…」

その返答に、コウは顎に手をやりしばらく目を伏せていた。

「井戸の中に死体があった」

「死体!?」

「顔は判別出来なかったが、服装からして恐らく魔術師だろう。
君、何か心当たりはないか?」

「そういえば、ちょっと前にヤユと同じ試験を出された駆けだしギルメンが突然いなくなったって、ギルドのアルゴニアンのおばさんが言ってたような…」

「もしヤユちゃんが指輪を取りに行ってたら、そうなってたかもしれないってこと…?」

泳げないことが幸いしたようだ。
衝撃の事実に焦りと憤りで顔を歪ませたヤユは、握った両拳をわなわなと震わせた。

「ゆ、許せない!
なんとしても、あのアルトマーに推薦状書かせてやるんだから!」

アルトマーとはハイエルフの別称で、シェイディンハルの魔術師ギルドの長がその種族だそうだ。
一般的にハイエルフは、高度な秘術を行使できるほどの魔力と知識を有している種族だと言われている。
それ故か高慢ちきな性格の者が多いらしく、ヤユ曰く、ここのギルド長は特にそういう人間らしい。

「一人で大丈夫?
その人、ヤユちゃんのこと嵌めようとした人でしょ?」

ギルド長の意図は皆目見当もつかないが、下手すれば消されるかもしれない。
心配そうにしているレアに、ヤユは大丈夫と首を振った。

「とりあえず、アルゴニアンのおばさんに報告してくる。
あの人も本気でアルトマーギルド長のこと嫌ってたから、グルってことはなさそうだし」

そう言ったヤユはコウに向き直ると、ぺこりと頭を下げた。

「それじゃ、私行きます。
コウ様のおかげで土左衛門にならずにすみました、ありがとうございます!」

愛くるしい笑顔を振りまくヤユに、コウはふわりと笑んで応える。
その完璧な微笑みにうっとりとしていたヤユは、しばらくして我に返ると、突然すたすたとレアの方に歩み寄った。

目の前で立ち止まったまま、ばつが悪そうに顔を背けているだけのヤユにまた罵られるんじゃないかとレアがどきどきしながら身構えていると、不意に黒橡の瞳が動いた。







「…レア、だっけ?
…一応…ありがと」

わずかに尖らせた唇から零れたのは、感謝の言葉だった。

まさか礼を言われるとは思ってもいなかったレアは肩透かしを食らい唖然としていたが、照れくさそうにしているヤユのその様子がなんだか可愛らしくて、どういたしましてと言いながら思わず破顔する。

するとヤユはさっと頬を朱に染めて目を泳がせ、眉間に皺を寄せた。

「わ、笑ってんじゃないわよ!
言っとくけど、ライバルってことには変わりないんだからね! ばーかばーか!!」

噛みつくようにしてそう吐き捨てると、ヤユはそのまま踵を返して駆け出した。
やはり罵られ、一瞬怯んだレアだったが、走り去るヤユの口の端がわずかに上がっているのを見た。







「…ライバルとは?」

小首を傾げるコウに、レアはくすくすと笑う。

「…さぁ?」

何故ライバル視されているのかは結局わからなかったが、なんだかそれも悪くない気がした。


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