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第16話 麗人たちの攻防



「あのね、コウ。
お願いがあるんだけど…」

ブリッジ亭の二階廊下に設けられたスペースでまったりくつろぐ昼下がり。
呼ばれたコウは追っていた文字から目を離すと、ゆっくりと顔を上げた。

シェイディンハルに来て以来、レアとコウはこの宿屋に長期滞在していた。
ギルドに加盟した者はギルド所有の施設を自由に使用してもいいらしいのだが、レアはギルドで寝泊まりすることだけは避けていた。
というのも、戦士ギルドに入って足を挫いて大目玉を食らったあの日、せっかく加盟したのだからとギルドで一泊してみたのだが、ほかのギルド員たちのいびきが盛大で、とてもじゃないが寝られる環境ではなかったのだ。







さらに日中ギルドに出向いても、動けない奴がいても邪魔なだけだとバーズに悪態をつかれるだけだったので、怪我が完治するまではギルドに顔を出さないことにした。
そもそも足を負傷していては遠出はおろか、近場でさえも移動するのに一苦労する。
なので、最近はこうして宿屋でおとなしくしていることが多い。







先を促すように微笑まれ、レアはどぎまぎしながら口を開いた。

「えっと、私に戦い方を教えてほしいの」

それは、前々から言おうと思っていたことだった。

強くなりたい、役に立ちたいという気持ちは、コウと共に行動するにつれて強くなっていた。
素人目にもコウが相当腕の立つ剣士であることはわかる。
今の強さに至るまでそれ相応の努力と経験を積んできた彼と肩を並べられるとは毛頭思っていないが、せめて自分の身くらいは自分で守れるようになりたい。
気持ちばかりが先行して、実力がまったく伴っていないことをまざまざと思い知った最近は余計にそう思うようになった。

意外な頼みごとにコウはきょとんとする。
てっきり、何か買ってほしい物があるとかそういう類のお願いかと思ったからだ。
しかし向けられる眼差しは思いのほか真剣で、レアが本気であることが窺い知れる。

コウは手にしていた本を静かに閉じた。

「まずは足を治さないとな」

微笑みながらそう言うと、レアの顔がみるみるうちに明るくなる。

「…うん!」

レアは嬉しそうに大きく頷いた。

その様子を目を細めて見ていたコウだったが、ふと何かに気づいたかのように眉を持ち上げた。

コウの視線は、自分の肩越しに注がれている。
それが何なのかを確認しようと上体を捻ったレアの鼻孔を、甘美で上品な芳香がくすぐったのと同時に、何かが勢いよく覆いかぶさった。







きゃあっ!?
…ア、アシュラさん…!?」

首に回された腕が解かれ目の前に現れたのは、美術品と見紛うほどに整った微笑みを湛えたアシュラだった。
青白い肌は至近距離で見てもきめ細かく、本当に造り物なんじゃないかと思わず疑ってしまう。

「会いたかったわ…」

耳元で囁かれ、レアは顔を真っ赤にしながらぞくりと体を震わせた。

アシュラとの再会は、あのお茶会以来だった。
途中で眠りに落ちたことが故意に仕組まれたことだと知る由もないレアは、その非礼を詫びようと何度か彼女の家へ出向いていた。
しかしいつ行っても留守で、結局会えず仕舞いだったのだ。

「わっ、わわわわわわたっ…!
…わ、私もアシュラさんに会いたかったんです」

そのあとに何を言おうとしているのかを瞬時に悟ったアシュラは、レアが続きを口にするより先にくすりと笑った。

「あの日のことは、気にしなくていいのよ。
私も子猫ちゃんの可愛い寝顔を堪能できたしね」

「で、でも…」

なおも口を開こうとするレアの花びらのような唇に、そっと人差し指が押し当てられる。

「いいの」

言い聞かせるようにゆっくりと紡がれる制止の言葉。
その声音は優しくもあり、どこか威圧的にも聞こえた。
レアはそれ以上、何も言えなかった。

大人しくなったレアの頬をいい子ねと言って撫でたアシュラが、おもむろに口を開いた。

「それより、足がどうかしたの?」












――何ですって?

採掘抗での出来事を一通り聞き終えたアシュラの顔は能面のようだった。
目鼻立ちが整っているだけに、無表情だとどこか不気味で怖い。
そんなことを考えながら、蛇に睨まれた蛙よろしくじっとしていたレアだったが、突然詰め寄られて大きく肩を震わせた。

「何故、何日もその状態で放置してるの。
早く教会に行って治療してもらいなさい」

「い、行ったんだけど、ヒーラーさんが熱出して寝込んでるみたいで」

数ある魔法の中に、外傷を治癒するものがある。
自分自身の傷を癒すことは、レアのように魔法のセンスが皆無な者を除けば、少し修行を積めば出来ない技ではない。
実際、レアはホタルが自身に施しているところを見たことがあった。
しかし他者の傷を癒すとなると相当の魔力を必要とし、故に扱える者が限られてくる。
治療術に特化した人々はヒーラーと呼ばれて重宝されており、教会で従事する者もいればツァヴィのように宮廷に召し抱えられている者も少なくない。







「医者の不養生もいいところね。
そんなの脅しでもして引きずり出せばいいのよ」

わあー!?
ア、アシュラさん! 私、大丈夫だか――ッ!?」

私が行ってあげるわと言って踵を返すアシュラを引き戻そうと、レアは慌てて席を立ったが、すぐに短く呻いてその場にうずくまってしまう。
一瞬だが、足に激痛が走ったのだ。
挫いた当初に比べればだいぶ歩けるようになったとはいえ、まだまだ本調子ではない。

「子猫ちゃんっ?」

レアの異変に気づいたアシュラがすかさず駆け寄る。
大丈夫と恥ずかしそうに笑うレアを椅子に座らせたアシュラは短く息を吐くと、今まで二人のやり取りを静かに見守っていたコウに鋭い眼差しを向けた。

「あなたは? 魔法は扱えないの?」

その声には明らかに苛立ちが混じっている。
しかしコウは、いつもと何ら変わらない様子で口を開いた。

「破壊と治癒なら会得しているが」

その一言で、レアとアシュラの動きが止まる。







「……治癒魔法?」

「あぁ」













「な、なんでこの子を癒してあげないのよ!?」

半ばヒステリック気味に叫ぶアシュラをよそに、コウはにっこりと微笑んだ。

「少しお灸を据えた方がいいかと思って」

――やっぱり怒ってた…!

コウの真意もそうだが、それ以上にその場が光で満ち溢れるような完璧な笑顔の方が恐ろしく感じられた。
血の気が引いて固まっているレアの肩をさっと抱いたアシュラは、コウから目をそらさずに吠える。

「子猫ちゃん、私といらっしゃい。
こんな腹黒男と一緒にいちゃダメよ!」

「でも、悪いのは私だし…」

「レアの好きにすればいい」

その言葉に、アシュラの整った弓型の眉がひくつく。







「あら、私の子猫ちゃんを連れ回してる割には随分と放任するのね」

「猫は気まぐれだからな」

ふっと目を細められ、心臓が飛び跳ねる。
一瞬のやり取りだったがそれをアシュラが見逃すわけもなく、まるで甘いものを食べすぎて胸焼けしたかのように露骨に顔をしかめた。

「そうやって、いたいけなこの子をたぶらかすのはやめてちょうだい」

「そこまで大切な飼い猫なら、首輪でもつけて鎖で繋いでおけばどうだ」

「誰かがその鎖を勝手に解いたみたいでね」

「や、やめて二人とも。
私どこにも行かないから」

言ってレアは一色触発といった雰囲気の二人の間に割って入る。

レアがどこにも行かないと口にした刹那、アシュラの瞳がわずかに揺れた。
ともすれば、傷ついた少女のようにも見える。
それを誤魔化すかのように艶のある髪をかきあげれば、その表情は辺りに漂う芳しい香りの中に掻き消えた。

小さく嘆息するアシュラを見たレアの顔に焦りの色が見え始める。

「あっ、べ、別にアシュラさんがいやって意味じゃなくて――」

慌てて取り繕うレアの頬に触れたアシュラは、その色っぽい唇に微笑を浮かべた。

「わかってるわよ」

三日月のような眼差しは慈しみに満ちていた。

過去の一切の記憶がないレアは、当然両親のことも覚えていない。
しかし、子供を見守る母親というのは今のアシュラのようなかんじなのだろうかと、彼女の瞳を見ていると不思議とそんな気持ちが湧いてくる。
それが何だかこそばゆいような恥ずかしいような妙な気分になり、レアは戸惑いながらわずかに目を伏せた。







「それじゃ、そろそろお暇させていただくわ。
子猫ちゃん、ちゃんと足治すのよ?」

「うん。
ありがとう、アシュラさん」

言われて頷くレアに再び一笑し、踵を返したアシュラだったが、幾歩か歩みを進めると不意に立ち止まった。







「――子猫ちゃんに何かしてご覧なさい。
…その首、掻き切ってやるわ」

そう吐き棄てる声音とコウを射る瞳は、背筋が凍るかと思うほど冷たかった。
二人の反応を見ることなくそのまま去っていくキャラメル色の髪を見ながら、コウが苦笑いを浮かべる。

「どこかで聞いたような台詞だな」

そしてどこかで見たことのあるやり取りの再来に、レアは一人おろおろしていた。



床板を踏み鳴らす靴音が遠ざかり、ブリッジ亭に再び穏やかな時間が流れ出す。

ふぅと一息ついたレアは、力なく背もたれにもたれかかった。
ホタルといいアシュラといい、どうしてコウとこれほど衝突してしまうのだろう。
相性もあるとは思うが、出来ればみんな仲良くなってほしい。
そう思いながらちらりとコウを見やったが、当の本人は何食わぬ顔で読書を再開しようとページをめくっている。

再びため息をついたレアだったが、突然何かを思い出したように声を上げた。







「それで、その…
私の足は治していただける――」

「駄目だ」







美人は怖い。
この半刻で、レアが学んだことだった。


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おひさかたぶりです(・∀・)ノ

コメントありがとうございました。
して、コメントを久しぶりにもらえたのでもしやと思ったらオブリ記事更新来てた!!
楽しみにしてますってば、本当に。

つか、私小心者なんで、こういうやり取りとかって見るだけでどきどきしちゃうんですよねw
渦中の中にいると想像するだけで胃が……orz

っていうか、やっぱりコウさん怒ってたw
物静かな分、怒鳴られるより怖いです(;´Д`)

でもレアちゃんの衣装のセクシーさで相殺です(゚∀゚)
一番最初のSSの表情可愛い♪
[ 2013/05/11 20:44 ] [ 編集 ]

ほんまお久しぶりです!
こちらにまでコメントくださってありがとうございます><ノ

やっとお話更新できました(;´Д`)
前回から半年以上放置してる私も人のこと言えないw

ぼちぼち更新はしていたものの、最近ブログから離れ気味で、よそ様のところにコメントしたのも何ヶ月ぶりやろーってかんじでした
ちょこちょこ読ませていただいてはいるんですが(*´σー`)
1拍手増えてたら私かもしれませんw

自分のことで誰かが言い合ってたりすると、どうしていいかわからなくなりますよねw
実際最近そういう場面に遭遇して、一人でおろおろしてましたw

普段穏やかそうにしてるけど実は腹の中真っ黒、っていう設定はありきたりですが、コウにはそんなかんじになってもらいたいなと思ってますw
レアの衣装はこれまで何気なく着せてたんですが、言われてみればセクシー担当のアシュラの服より胸元露わですね(*ノωノ)

楽しみにしてると言ってくださってありがとうございます、嬉しいです><
相変わらずいろんなものに浮気してるので次の更新もいつになるかわかりませんが、よろしければまたお付き合いください^^
[ 2013/05/12 13:22 ] [ 編集 ]

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