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第5話 神々に悩まされし者 前編

見聞を広めるため、私は帝都で知り合ったエルフのコウとともに旅に出た。

――のはいいのだが、旅に出るといっても具体的に何をすればいいのかがわからない。
そんな私に、コウは何か仕事を請け負ってみるのはどうだと提案した。

定期的に仕事を回してくれるギルドに加盟するのが手っ取り早いだろうということになり、私たちは戦士ギルドに加入すべく、まずレヤウィンに向かうことにした。

何故戦士ギルドにしたのかというと、鍛えているホタルにくっついてたまに剣の手ほどきを受けていたので剣は多少扱えるのだが、魔法はからっきしダメだからだ。つまり消去法。

盗賊が集うギルドもあるらしいが、身を持ち崩すつもりはない。







程なくしてレヤウィンに到着した。
通い慣れた街だが、こうして剣を担いで鎧をまとい冒険者として訪れると見慣れた街もどこか違う場所のように思えて、それが何だか嬉しかった。

「どうした?」

聞かれて私は自分の口の端が緩んでいることに気がつく。
私は慌てて口を隠すと、にっこりと微笑んでいるコウの背後に回って背中を押した。

「ううん、何でもない。
ギルドはあっちの方よ、行きましょ」







街の中央に建っている一際大きな赤茶色の建物が戦士ギルドだった。
外から見ることは何度もあったが、いざ入るとなると何だか緊張してしまう。
私はドキドキしながらドアの取っ手に手をかけた。

が、扉が開かない。
今日は定休日なのだろうか。そもそも、ギルドに定休日なんてあるのだろうか?
そんなことを考えながらがちゃがちゃと扉と格闘してると、コウが後ろでくすくすと笑い出した。
何故笑われているのかわからずきょとんとする。

「レア、引くんじゃなくて押すんじゃないか?」

「え? あ、ほんとだ…」

言われたとおりにすると、扉はすんなり開いた。

――何やってるの、私…

自分の間抜けさに恥ずかしくなって、取っ手を持つ手に妙に力が入ってしまう。
すると、思いのほか扉が勢いよく開いた。







「うぉあ!?」

短い悲鳴が上がったのと扉に走った衝撃、そして鈍い音がしたのはほぼ同時のことだった。
びっくりして中を覗き見ると、鉄の鎧を身にまとった男が前のめりに転んでいた。

「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

どうやら私が開けた扉に突き飛ばされたらしい。
男は床に手と膝をつき、その体勢のまましばらくその場から動かなかった。

怪我を負わせてしまっていたらどうしようとおろおろしていると、ゆっくりと首だけを動かしてこちらを見る恨めしそうな男の目と目が合った。変な沈黙が辺りを包む。







やがて男は背中をさすりながらよろよろと立ち上がった。

「扉を爆破されたのかと思った…
…で、何か用かい?」

肩を震わせて笑いをこらえているコウを横目に、私は男のほうに向き直る。

「あの、戦士ギルドに入りたいんですけど」

私がそう言うと、男の険しかった顔が徐々に穏やかになっていく。

「入団希望か、そいつは嬉しいな。
だけど、うちでは入団手続きは出来ないんだ」

今日ギルドに加入してすぐに仕事をもらえると思っていた私たちは、言われてきょとんとした。
そんな私たちに、男は説明を続ける。

「シェイディンハルかコロール、もしくはアンヴィルに行ってもらわないといけないんだが…どこがいい?
入団希望者がいると支部長に連絡しておくよ」

聞かれて私はコウのほうを仰ぎ見る。
私の視線に気づいたコウはわずかに首を動かしてこちらを見ると、ふっと目を細めた。
その仕草に、私の心臓が跳ねる。

コウの一挙手一投足は逐一優雅に見えて、それでいてどこか色っぽい。
彼の仕草にその都度反応していては心臓がいくつあっても足りなくなると自分を戒めるも、顔は熱くなる一方で。







深緑の目が決めていいよと言っていたので、私は赤くなった顔を見られないようにうつむき気味でこくこくと頷いた。
シェイディンハル、コロール、アンヴィル。ここから一番近いのはシェイディンハルだろうか。

「あ…あの、じゃあ、シェイディンハルでお願いします」

私がそう言うと、男はうんうんと人当たりのよさそうな表情で頷いた。

「わかった。一緒に働けるのを楽しみにしているよ」

次に来るときは扉はゆっくり開けてくれよと冗談交じりに言う男に、私はもう一度謝って戦士ギルドを後にした。







「…もう、そんなに笑わなくてもいいじゃない」

ギルドを出てから、私は口を尖らせてコウをなじった。

「すまない、おもしろかったからつい…」

思い出したのか、言いながらコウがまたくすくすと笑い出したので、私の頬にもまた熱が戻ってくる。

屋敷にいるときには気づかなかったが、私は結構ドジなようだ。
自分の新たな一面に複雑な気持ちになったが、それはこうして旅に出なければ垣間見ることもなかったことで。
これからいろんなことに触れることで、そういったことに気づいたり発見したりしていくのかと思うと胸が躍った。







「あら、レアちゃん?」

コウにつられて一緒に笑っていると、不意に声をかけられた。
見ると、フードを目深に被った色白のカジートが前方に立っている。

「ツァヴィさん」

私が手を振ると、彼女も手を振り返してくれた。

「やっぱりレアちゃんだわ。そんな格好をしているからわからなかった」

駆け寄る私に、似合っているわねと言ってツァヴィさんはにっこりと微笑んだ。

彼女はレヤウィンの伯爵お付きのヒーラーで、私の魔法の先生でもある。

最初は『自衛くらい出来ないといけません!』と言うホタルに魔法を教えてもらっていたのだが、私のあまりのダメっぷりにお手上げ状態となったホタルが、城仕えの魔術師で弟子も数人とっているというツァヴィさんに私への魔法指導を依頼したのがきっかけで彼女と知り合った。

彼女のおかげで小さな火の玉を出すくらいの簡単な魔法は使えるようになったが、彼女も匙を投げてしまうほどに私には魔法のセンスがなかったようで、魔法の授業はいつしかお茶会と化していた。

「今日はホタルちゃんは一緒じゃ――
…あらやだ、デート中だった?」

ホタルの姿を探していたツァヴィさんだったが、後ろからゆっくりと歩いてきたコウが私の傍で止まったのを見て目を丸くしている。

「そ、そういうのじゃないよ」

男前じゃないと言ってにやりと意味深に笑うツァヴィさんに慌てて否定した私は、事の経緯を簡単に説明して、コウとツァヴィさんにお互いのことを紹介した。

まるで宮廷の舞踏会でなされているように優雅に挨拶を交わす二人に見惚れていると、突然ツァヴィさんがあっと何かを思い出したように声を上げた。
そして私のほうに向き直り、少し慌てた様子で話し出す。

「そうだわ、レアちゃん。あなた、ロゼンティアと知り合いだったわよね?」

聞かれて私は頷いた。

ロゼンティア・ガレイナスはこの街に住んでいる女性で、趣味で考古学を研究している彼女とは本屋でよく顔をあわせているうちに仲良くなり、彼女の家にも何度かお邪魔したことがある。
噂によると、ちょっと前に交際していた男性に逃げられたとかなんとか。







ツァヴィさんは周りに人がいないかを確かめると、つつっと私たちに近づいて声を潜めた。

「ちょっと前にね、彼女の家の前を通りかかったらなんだか変な臭いがしたの。
でも私の勘違いかしらと思ってそのときは特に気に留めていなかったんだけど、さっき通ったら鼻がひん曲がるかと思うほどの異臭がしたのよ」

「異臭?」

「えぇ。死臭かしらと思うほどの臭いでね…
あ、中から人の気配がしたから、多分死んではいないと思うわ」

死臭と聞いてびっくりしている私に、だから大丈夫よとツァヴィさんは続ける。
それでもよっぽど臭かったらしく、臭いを思い出したのだろう、彼女は不快そうに顔を歪めた。
彼女はカジートで嗅覚が優れているから、余計にダメージを受けたのかもしれない。

「確かめようと思ったんだけど私はちょっと耐えられそうにないから、時間があれば見に行ってあげてくれないかしら?」

彼女の提案に、私はしばらく考えてからコウを見た。

「ちょっとだけ様子を見に行ってもいい?」

「あぁ、もちろんだ」

快く承諾するコウを見て満足げに頷いたツァヴィさんは、そっと私を抱きしめた。

「それじゃあ私、そろそろお城に戻るわね。レアちゃん、無茶しちゃだめよ」

ツァヴィさんはそう言って回した手を緩め、私ににっこりと微笑みかけた。そしてコウに一礼すると、城へと帰っていった。

彼女の背中を見送った私たちは、ロゼンティアさんの家に向かった。


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