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第5話 神々に悩まされし者 中編



ロゼンティアさんは裕福な暮らしをしていて、二階建ての大きな家に住んでいた。
そんな彼女の家に近づくにつれて異臭が強くなり、扉の前まで来るとより一層濃い空気が漂っていた。







「うっ…!?」

あまりの臭いに思わず鼻を覆う。
腐った肉を放置したようなそんな臭いで、死臭と紛うのも無理はないと思った。
彼女の家を横切る人たちも、みな顔をしかめて彼女の家のほうを見ている。

「これ、尋常じゃないよね…」

「…あぁ」

色をつけるとしたら、黒や緑や茶を混ぜたようなグロテスクな色。
そんな空気が漏れている扉を見つめたまま言う私に、コウは眉を寄せて小さく頷いた。
外でこの臭いなら、中はどれほどのものなのだろう。
そんなことを考えてげんなりしていると、中から動物のような奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
私たちはしばらく顔を見合わせていたが、やがてコウが諦めたように目を伏せる。

「…行くか」

出来ればこのまま回れ右をして立ち去りたいが、ロゼンティアさんに何かあったのは明白だし、このまま放っておくわけにもいかない。
私は頷き返し、意を決してその扉を開けた。

が、案の定家の中は、それはもう悲惨な臭いが立ち込めていた。
すぐさま扉を閉めて逃げ帰ろうと踵を返した瞬間、腕をがっしりと掴まれた。
見ればコウが無言で首を横に振っている。
腕を掴んだまま再び扉を開けたコウに引きずられるようにして、私は泣く泣く家の中に足を踏み入れた。

「…ロゼンティアさーん…」

花瓶は割れ、絵の入った額縁はずれ落ち、いたるところに引っかき傷がある。
キレイ好きなはずのロゼンティアさんの家は、何かが暴れまわったかのようにひっくり返っていた。
強盗が押し入ったのかとも考えたが、こんな異臭を放つ強盗がいるはずもないと、その推測は一瞬のうちに消し去ることにした。

けほけほと咳き込みながら家の中を捜索していた私たちは、ダイニングルームの前で足を止めた。







「うっわ…!?」

「…あれは…」

部屋の中の光景を見た私たちは、その場に立ち尽くした。







「いい加減にして! もう、ついて来ないでちょうだい!」

ヒステリックに叫ぶロゼンティアさんを囲うようにして、耳の長い土色の動物が群がっていた。
本でしか見たことがなかったが、あの生物は多分スキャンプだ。
スキャンプは犬と鬼を混ぜたような顔をしているモンスターで、その鋭い爪で引き裂いたり火の玉を飛ばしたりして人間に危害を加えるらしい。
そして、この悪臭の根源…
そんな獰猛なモンスターに、ロゼンティアさんは囲まれていた。

どうしようと私が思案するより先に、コウが駆けた。
コウは抜刀しながらスキャンプとの間合いを詰めると素早くその胴を薙ぎ、次いで奥にいたもう一匹を一刀両断にした。

「ギャアアッ!!」

しゃがれ声の断末魔を上げてそれぞれその場に崩れ落ちたスキャンプだったが、鮮血の代わりに切り口から煙が吹き出たかと思うと、骸がきれいさっぱり消えてなくなった。
そして骸が横たわっていた場所に赤色の魔方陣がうっすらと浮かび上がり、そこから這い出るようにして再びスキャンプが姿を現したではないか。
その様子を私たちは唖然として見ていた。

「レ、レアちゃんっ?」

私たちに気づいたロゼンティアさんは、しまったというような顔をしておろおろしている。
スキャンプが自分の傍で消えたり湧いたりしていることなど、気にも留めていない様子だ。
そしてスキャンプたちもまた、何をするでもなくただロゼンティアさんの周りに群がっているだけで。

このスキャンプたちに害がないと判断したのだろう、しばらくしてコウが刀を鞘に戻した。
その様子を見て、私も恐る恐る部屋の中に足を踏み入れてコウの後を追う。







「あなた、どうしてここに…」

スキャンプが奇妙な鳴き声を上げるたびに体をびくつかせている私に、ロゼンティアさんがぽつりと言った。
彼女はとても疲れきった様子で、その顔にはまるで生気がない。

「ロゼンティアさんの家から異臭がするって聞いたから、心配になって」

「そうだったの…」

「このスキャンプたちは?」

コウはスキャンプを目で指して問うた。
ロゼンティアさんは深いため息をつき、恐る恐る背中に手を伸ばす。

「…この杖のせいなの」

沈痛な面持ちでそう言った彼女の手には、奇妙な形の杖が握られていた。

「この杖はエヴァースキャンプの杖といって、シェオゴラスというデイドラの力が宿ってるらしいの」







彼女の話によると、数週間前、ロゼンティアさんが珍しい物を買うのが好きだということを聞きつけてやって来た魔剣士が、彼女に格安で杖を譲ったらしい。

その杖がエヴァースキャンプの杖で、それに刻まれていた古代文字を口にした瞬間、このスキャンプたちが突然現れたという。

スキャンプたちは彼女に危害を加えるでもなく、ただ彼女の後をついて来るだけのようだったが、こんな動物を引き連れて外に出るわけにもいかないので、彼女は杖を捨てようとしたらしい。
しかし、いざ杖を捨てようとすると何故か捨てることに抵抗してしまい、今もその呪われた杖を持ったままだという。







「私のきれいな家をめちゃくちゃにするし、うるさいし、何より臭いのよ!」

事の経緯を説明し終えたロゼンティアさんは、ジャンプしたりその辺の物を叩き落としたりするスキャンプたちに怒鳴りつけて頭を抱えた。
たしかにこの臭いはひどい。
もし私が数週間もこんな環境にいなければならなくなったとすれば、きっと発狂してしまう。

「その杖の呪いを解くことは不可能なのか?」

コウの問いに、ロゼンティアさんはいいえと首を横に振った。

「ダークファザムという洞窟の奥に祠があって、そこに杖を安置すれば呪いが解けるそうなの」

誰かに杖を押しつければ私は呪いから解放されるけどねと、彼女はため息混じりでつけ足す。

一人では手に負えなくなったロゼンティアさんは、魔術師ギルドにいる友人にこっそり助けを求めたそうだ。
するとその友人は杖や呪いのことを調べてくれたらしいのだが、スキャンプやデイドリック関係のものに関わっていることがほかの魔法使いに知れるとギルドを追放されてしまう恐れがあるということで、その友人はそこまでしか介入出来なかったという。

顎に手をやって考え込んでいたコウは、不意に私のほうを向いた。

「レア、彼女を助けてあげてはどうだろう」

言われて私は頷いた。
こんなに疲弊しきっているロゼンティアさんを見過ごすわけにはいかない。

「ロゼンティアさん、私たちが杖の呪いを解いてきます」

「本当っ!? あぁ…あなたたちは私の命の恩人だわ! さぁ、これを」

そう言ってロゼンティアさんは私に杖を差し出した。







杖を受け取った瞬間、全身にぞぞっと悪寒が走った。
そしてスキャンプたちが一斉にこちらを見たかと思うと、今度は私の周りに集まりだしたではないか。

「いやあぁ!?」

びっくりした私は、情けない悲鳴を上げて杖を放り投げた。
と思ったのだが、不思議なことに杖はまだ私の手にしっかりと収まっている。
手を前に突き出して杖を落とそうと腕をぶんぶん振ってみたが、まるで固定されているように私の手は開かない。

――これが、シェオゴラスの呪い…

そう思うと何となく怖くなり、私は隠れるようにしてコウの後ろに擦り寄った。

「…ごめんなさいね、こんなことに巻き込んでしまって…
道中、気をつけてね」

申し訳なさそうに言ったロゼンティアさんは、ナインのご加護がありますようにと祈りを捧げて私たちを送り出してくれた。







ロゼンティアさんの家から出てきた私は、そっと振り返った。
この数週間、ずっと家の中にいたスキャンプたちは久々に外に出られて喜んでいるのか、心なしか嬉しそうに飛び跳ねたり背伸びしたりしている。
衛兵にスタァァァァップ!! と引き止められてもおかしくないこの状況に、私はがくりと肩を落とした。

「うぅ…早く祠に行こう?」

「あぁ、そうだな」

行き交う人たちに奇怪の眼差しを向けられながら、私たちはダークファザムの洞窟へ向かった。


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