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第5話 神々に悩まされし者 後編

スキャンプを引き連れていた私たちは、案の定、街門前でスタァァァァップ!! と呼び止められてしまった。
しかし事情を説明すると顔見知りの衛兵だったということもあってか、意外とあっさり通してくれた。
これ以上騒ぎが拡がらないように、ロゼンティアさんの名前は伏せておいた。

手にするとスキャンプたちに付きまとわれるという呪われた杖、エヴァースキャンプの杖を祠に返すために、私たちはダークファザムの洞窟に向かった。







レヤウィンの街を出て街道をそれ、ゆるやかな斜面をしばらく進むと、探していた洞窟が姿を現した。

スキャンプたちは相変わらずぴょんぴょん跳ねたり急に奇声を発したりしながら私について来ていたが、それにも少しずつ慣れてきている自分に少し驚く。

いつ誰が作ったのかわからない古ぼけた木製の扉を開けて、私たちは洞窟の中へと足を踏み入れた。







洞窟内は静まり返っており、地下へとのびる石段を下りきれば一寸先も見えないほどの暗闇が広がっていた。
そして私たちの鼻をかすめるのは、例のあの臭い。

コウは手際よく二本の松明に火を灯し、一方を私に手渡した。

「…いるね」

「あぁ…それも、相当な数だな」

松明を受け取りながらぽつりと言うと、コウが重々しく頷く。
ロゼンティアさんの家に立ち込めていた臭いなど比にならないほどの異臭が、この洞窟内に充満していた。
そしてその臭いは奥に進めば進むほど色濃くなり、洞窟内のじっとりとした空気が一層不快な気分にさせる。

それでも私は初めての洞窟探索に、内心わくわくしていた。
どうせならもうちょっとマシなところに行きたかった気もするが、群生している見たことのない植物や、無造作に置かれた木箱の中から金貨や宝石を見つけるたびに、私は異臭のことなど忘れて子どものようにはしゃいだ。



松明の灯りを頼りに慎重に進むと、少し開けた場所に出た。
そこには誰が置いたのか、火が焚かれた大きな火受けの銅皿が数個あり、奥へと続く通路が何本かのびている。







また何か珍しい物がないかときょろきょろと辺りを見回していると、不意に通路のひとつの先で小さな明かりが灯ったのを見つけた。
それはまるで松明の灯りのようで、暗闇の中で少しずつ大きくなっているようだった。
私は目を凝らしてその様子を見ていたのだが、

「危ない!」

突然の喚起に、私は弾かれたように振り向いた。
しかし同時に視界がぐらつき、体が一瞬宙に浮いた。
思わず手放した松明が乾いた音を立てて地面に落ちる。







何が起きたのかわからずに身を強張らせていると、大丈夫かと声が降ってきた。
見ればコウが心配そうにこちらを見ている。
私はコウに抱きすくめられた状態で、今し方立っていた場所とは少し離れた場所にいることがわかった。
そして、さっき私がいた辺りの地面には焼け焦げたような跡が残っている。
どうやら私は何かに狙われていたらしい。

コウは私に外傷がないことを確認すると、その手を緩めて私を解放し、素早く白刀を抜き払った。
するとどこからかしゅーしゅーと空気が漏れるような音が聞こえてきた。その音は徐々に大きくなり、こちらに近づいてきていることがわかる。
高鳴る鼓動を抑えながら私も続いて剣を構えた瞬間、先ほど見ていた通路から何かが飛び出してきた。







「シャギャアアァ!!」

それは、奇声を発しながら私に飛びかかってきた。
驚いた私は咄嗟に剣を横に寝かせて胸の前で構えた。両手に走る衝撃に負けじと剣をしっかりと握りしめる。
飛び出してきたそれがスキャンプだと認識したのはその直後で、奇襲の一撃を運よく防げたらしく、攻撃を弾かれたスキャンプは体勢を崩して後ろによろめいた。
その隙を逃すまいと、私は踏み込んで剣を力一杯振り下ろす。
召喚されたスキャンプとは違ってその切り口からは勢いよく鮮血が吹き出し、声を上げる間もなく絶命したスキャンプはその場に崩れ落ちた。

そのとき、手に妙な感覚を覚えた。







――何、この感じ…

思わず自分の手のひらを見る。
わずかに震えている手には、スキャンプの肉と骨を断った感覚がはっきりと残っていた。
相手が魔物といえど、これが『殺める』ということで、そして私はこの感覚を”以前から”知っていたような気がするのだ。

――過去にも、私は何かを殺した…?

そう思うと、何ともいえぬ寒気が背中を走った。







「怪我はないか」

そう言いながら傍に来たコウに肩をぽんと叩かれて、私は我に返った。
必死で気がつかなかったが、他の通路からも同時にスキャンプが奇襲をかけてきていたようで、数体のスキャンプの骸が辺りに横たわっている。

いい太刀筋だったと褒められたが、今の私には素直に喜べる余裕がなかった。
そんな私の異変に気づいたコウの眉がわずかに曇る。

「どうした、顔色が悪いぞ」

心配そうに顔をのぞき込むコウに、私はふるふると首を横に振った。

「き、急に出てきたからびっくりしたの」

胸を撫で下ろし、倒せてよかったと笑ってみせる。

過去に何かを殺していたかもしれない、なんて言えるはずがない。

ぎこちない笑顔が張りついている私をコウはしばらく黙って見ていたが、やがてふっと微笑んでそうかと頷いた。
それ以上は詮索しないでくれたので、私たちは改めて祠を目指すことにした。







その後も何度かスキャンプの妨害に遭い、挙げ句に私はスキャンプの放った火の玉に服の端を焦がされてしまった。
そのとき、先ほど私が暗闇の奥に見た松明のような灯りがそれだったということに気づき、相変わらず私の後ろに控えている杖のスキャンプたちを、同じ姿形だということで無性に蹴りたくなった。
もちろん、これは八つ当たりだが。












さらに奥へと進むと、突如として視界が開けた。

岩壁に囲まれた広い部屋はいびつな円形で、天井は高く、仰ぎ見ても頂点が見えないほどだ。
大きなかがり火がたくさん焚かれていて、洞窟内とは思えないほどに明るいこの部屋の真ん中には石造りの祭壇があり、そこには変なマークが描かれた石の台座と、そして杖を持って愉快そうに笑っている翁の石像が鎮座している。

私たちは、ようやく祠に到達したのだった。







祭壇の階段を上り、台座の前まで足を運んだ私は、杖を手に取って目の前の石像を眺めた。
おそらく、笑っているあの翁こそが、この呪いの杖を創り出した張本人であるシェオゴラスだろう。
今までの苦労を思うと、大口を開いて一人愉快そうしているシェオゴラスがだんだん憎たらしく思えてきた。







同じく隣で石像を見ていたコウと不意に目が合う。
こちらに向き直ってゆっくりと頷くコウに頷き返した私は、呪われた杖をそっと台座の上に差し出した。

杖が手から離れますように。

そう念じながら手を放すと、杖は滑り落ちるようにして台座に収まり、途端に体がふっと軽くなった。
その瞬間、スキャンプたちの動きが一瞬止まったかと思うと、今までずっとついて来ていたことが嘘のようにスキャンプたちはそれぞれ洞窟内に散っていった。
どうやら、杖の呪いを解くことができたようだ。







洞窟から出ようと祭壇を降りたところに、一匹のスキャンプがいた。
呪いが解けたからといって襲ってくる気配はなく、ただたたずんでいるだけのようである。
私はそのスキャンプにゆっくりと近づき、目線の高さが同じになるようにしゃがみ込んだ。
スキャンプはしゅーしゅーと荒い呼吸をしながら、私の目をじっと見つめている。

私たちやロゼンティアさんも散々な目に遭ったが、元はといえば人間がここから杖を持ち出したのが原因なのだから、このスキャンプたちも言ってみれば被害者なのかもしれない。
それにこうして見てみると、犬っぽくて可愛く見えないこともない…ような気もする。







「ここでいい子にしてるのよ」

私がそう言うと、言葉を理解して応えたのか、はたまたただタイミングが合っただけか、スキャンプは急に奇声を発して大きく伸びた。

「きゃあぁあっ!?」

「ははは」

びっくりした私はコウにしがみつき、スキャンプは楽しそうにぴょんぴょんと跳ね、それを見たコウはおもしろそうに笑っている。
前言撤回。ただ心臓に悪いだけで、可愛くとも何ともない!












無事に街にたどり着いた私たちは、再びロゼンティアさんの家を訪ねた。
家の中はすっかり片付けられていて、あの異臭もわずかに残っているだけでだいぶマシになっているようだ。
もっとも、臭いに関しては洞窟に長居したせいで私の鼻がおかしくなっているだけかもしれないが。

床を磨いていたロゼンティアさんは私たちに気づき、泡のついたブラシを持ったまま立ち上がった。
そしてスキャンプがいないことを確認すると、まるで少女のような微笑みを満面に湛えた。

「呪いが解けたのね! あぁ…あなたたち、本当にありがとう! 何てお礼をしたらいいか…」

「あの…じゃあ、お風呂貸してもらえませんか?」

私が小さくそう言うと、ロゼンティアさんは吹き出した。

「えぇ、そうね。是非入っていってちょうだい。何なら夕食も食べていく?」

聞かれて私は即座に首を横に振る。
昼から何も食べていなかったが、体にまとわりついているこの臭いのおかげで食欲はすっかり失せてしまっていた。
コウも同じ状態に陥っているのか、食事と聞いて苦笑いしている。

そんな私たちの状態をわかっていて言ったらしく、ロゼンティアさんは冗談よと笑いながらブラシをバケツに放り込んだ。
すると突然ロゼンティアさんはそうだと言って手を叩き、奥の部屋に消えていった。







きょとんとしている私たちの元に彼女が戻ってきたのはそれからすぐのことで、彼女は手に何かを持っているようだった。

「これ、よかったら貰ってちょうだい」

そう言って彼女が差し出したのは、正方形の小さな箱だった。
受け取った箱をゆっくりと開けてみると、そこには変わった形の指輪が納められていた。







――まさか、また呪われてる?

反射的にそう思った私は思わず身構える。
コウも同じことを考えていたようで、私たちは顔を見合わせた。

「あ、それは大丈夫よ」

私たちの考えていることを看破したロゼンティアさんは複雑な笑みをこぼす。
そして彼女は指輪をちらっと見ると、わずかに目を伏せた。その顔はどこか寂しげである。

聞けば、この指輪は恋人に贈るつもりで帝都で購入したらしいのだが、その恋人が彼女の元を去ってしまったので、必要なくなってしまったという。
…どうやら、噂は本当だったようだ。

この話を聞いておいて突き返すのも何だか酷な気もするし、せっかくなので指輪はもらっておくことにした。
押しつけられた感がしないこともないが、杖の呪いと苦い思い出の品から解放されて安堵したロゼンティアさんの穏やかな顔を見ると、それはそれで別にいいかなと思えた。







ロゼンティアさんの家を出た頃には、すっかり日が落ちていた。
歩くたびに揺れる髪から石鹸の香りが漂うだけで、私の足取りは軽くなる。
少し冷たい夜風が火照った肌に心地いい。

ふと、空を仰ぐ。
紺碧の空はいつものように静かで、星がせめぎ合っている。
いつもと変わらない空。
しかし、何かを成しえたという達成感と、誰かの役に立てたという充実感に満たされている私には、そんな空さえも新鮮に感じることができた。







隣を歩くコウをちらりと見る。

ブロンズグレイの髪はまだわずかにしっとりと濡れていて、それがどこか色っぽく、街灯に照らされるたびに金糸のように輝いてとてもきれいだ。

「あの…コウ?」

呼べば一歩ほど先を行くコウがゆっくりと振り向き、その深緑の瞳が私をとらえる。
気分が高揚しているせいか、やけに心臓の音がうるさい。

「ん?」

コウがやんわりと微笑む。
それが何だかこそばゆくて、私はその眼差しから逃れるようにぺこりと頭を下げた。

「えっと…これからも、よろしくお願いします」

箱庭から出ることはとても怖かったし、今でも先を思うと不安になる。
しかし今日一日の洞窟探索を通して、これからもっといろんなものを見てみたいと思った。
彼に出会わなければ、こういった気持ちを味わうこともなかったのだろう。

私は恐る恐る顔を上げた。
コウは不思議そうにこちらを見ていたが、やがて彼の目と口の端が穏やかに緩む。

「こちらこそ」

そのやさしい微笑みが嬉しくて、私は少し照れながら大きく頷いた。







――彼に出会えて、本当によかった。

その思いに同調してくれているかのように、一際大きな星が強く瞬いた。


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