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第2話 とりかごのとり

私たちの住む屋敷は、インペリアルシティよりはるか南に位置する都市レヤウィンのそばに広がるブラックウッドという森の奥にある。
馬を飛ばしても半日以上かかるので帝都まで出てきたときには宿を取り、翌日に朝一で出立するのが常だった。
そして今回も帝都一と言われている高級宿に泊まったのだが…







「な、なんであんたがここにいるのよ!?」

開口一番、ホタルは叫びにも似た声を上げた。
夕食を取ろうと私たちがダイニングルームへ向かうと、そこに先ほど庭園地区で出会ったブロンズグレイの髪の男がいたのだ。

「もう、ホタル! 失礼よ」

すでに敬語も使わないでいるホタルをたしなめた私には、彼女がどうしてそこまで嫌がるのかさっぱりわからない。
ホタルは私にきつく言われてしょんぼりしながらも、やはり譲れないのか、私と男とを交互に見ながらまるで子供のようにぐずり出した。

「で…でも、お嬢!」

「構わないよ」

男はやんわりと微笑んで言ったが、それがかえって気に食わなかったらしい。ホタルはあからさまにいやな顔をしてそっぽを向いてしまった。
そんなホタルの態度に盛大なため息をついた私は、男のほうに向き直ってぺこぺこと謝った。
全く気にしていないから君も気にするなと言って笑った男は、そうだと何かをひらめいたように手を打った。

「ここで逢ったのも何かの縁だ。夕食がまだなら一緒にどうだ?」







男の提案で、私たちは三人で食事をすることになった。
高級宿のディナーとだけあって出てくる料理はみな豪勢で、入手困難といわれているシャドウバニッシュワインというヴィンテージもののワインまで運ばれてきた。

最初不機嫌そうにしていたホタルだったが、おいしい料理を食べているうちに徐々に機嫌がよくなり、敵対心を捨てたわけではなさそうだが男とも会話らしい会話をするようになった。今は酒に酔ってテーブルにうっ伏して眠ってしまっている。
そんなホタルの横で、私は男と談笑していた。

男の名はコウという。
一人でシロディール中を旅しているらしい。

話している中で私は自分に過去の記憶がないことを告げると、コウは旅の話をたくさん聞かせてくれた。
各地にアイレイドと呼ばれる種族が作った遺跡があるとか、どこかの領地に引きこもり気味な伯爵がいるとか、街道で橋の架かっているところでは大概追い剥ぎが待ち伏せしているとか。
本の中の世界しか知らない私にはどれもがとても新鮮で、そしてとてもおもしろかった。

「レアは案外、どこかの令嬢だったのかもしれないな。ほら、ホタルも君の事を『お嬢』と呼んでいるし」

「私が? まさか」

私はころころと笑って、きれいなガラスの容器に入れられたバニラアイスを食べた。
笑いながらいいやと首を横に振ったコウは、空になったグラスにワインを注ぐ。

「それにレアは品のある顔立ちをしている。あながちはずれていないと思うよ」

言われて私は思わずむせた。
コウは照れるようなセリフをさらっと言ってのけることが話していてわかった。言い馴れているんだろうが、何故かそれが悔しいような悲しいような、複雑な気持ちになった。
涙目になって恨めしそうにコウを見たが、当の本人は何食わぬ顔でワインの入ったグラスを口に運んでいる。
呼吸を整えた私は照れ隠しにバニラアイスをもう一口食べた。冷たくて程よい甘みが口の中に広がる。

そういえば、何故『お嬢』なのだろう。
ホタルは私が”目覚めた”ときから当たり前のように私を『お嬢』と呼んでいたから、私もそう呼ばれることが当たり前のような気がして特に気にしたことがなかった。

私は、何者なのだろう。

農家の娘だったかもしれないし犯罪者だったかもしれないし、それこそどこかの令嬢だったかもしれない。
何故記憶を失ったのか、その経緯だって気になる。
自分の過去を知りたいという気持ちはもちろんあるが、知ってしまうのが怖いと思うのも事実だった。

それでも、やっぱり知りたい。

庭園地区でコウの髪や瞳の色を見て”懐かしい"と感じたときから、その思いは強くなっていた。

「旅か…楽しそう」

いろんな場所へ行き、いろんなものを見れば、記憶を呼び覚ますことができるかもしれない。
そう思うと、自然とそんなことを口にしていた。







「私と一緒に来るか?」

「え」

思いがけない誘いに素っ頓狂な声を上げてしまった。
慌てて自分の口を塞ぎ、頬が赤くなるのを感じながらコウを見る。
目が合うと、コウは目を少し細めただけだったが、その顔は別に冗談を言っているようではなさそうだった。
突然のことに戸惑った私は、寝ているホタルや磨かれた銀食器などを落ち着きなく見る。

「…そんな、急には決められないわ。
それにホタルだって何て言うかわからないし…」

「ホタルは君の何なんだ」

間髪を容れずにコウが静かに言った。
彼の表情は先ほどと変わってはいなかったが、今は何故か怖いと感じた。
私はその表情に一瞬怯んで身を強張らせる。

「ホタルは、大切な人よ。この子がいるから今の私があるの」

楽しいときも悲しいときも、いつも傍にいてくれたのはホタルだった。
私にとってホタルは友人であり妹であり、時には母のような存在。
ホタルがいなければ、私は今頃どうなっていたかわからない。

しばらくして私がそう言うと、コウはそうかと頷いて優雅な手つきでグラスを取り、ワインを一口飲んだ。
そして音もなくグラスをテーブルに置くと、その深緑色の瞳が私をとらえた。

「それでも、君の人生は君のものだ。彼女が決める事ではないだろう」

私はコウの瞳を見たまま動かなかった。
否、動けなかった。
そんな私をコウはじっと見つめている。
実際にはそんなに時間は経っていなかったが、私には何時間もそのままの状態でいたように思えた。

ふと、コウが微笑んだ。
その瞬間に金縛りが解けたように我に返った私は、コウが席を立つのをただ見ていた。

「私は明日の朝、帝都を発つ。
世界を見たければ、それまでに返事をもらえるか?」

コウはおやすみとにっこり微笑んで去っていった。












その日の夜更け、インペリアルシティの波止場地区の外れに人影があった。
雲間からもれる月の光に照らされたブロンズグレイの髪が、風を受けてさらさらとなびいている。







「何故、お嬢を惑わすようなことを言うの」

いつの間にかコウの背後に立っていたホタルが冷たく言い放った。
その声は相変わらず敵対心剥き出しだが、レアといたときには聞くことのなかった冷たさをはらんでいる。

気配を消して近づいてきたホタルを目だけを動かして確認したコウは前を見たまま、独り言のようにぽつりと呟いた。

「鳥籠の中の鳥は、見ていて逃がしたくなる」

その言葉にホタルはわずかに眉を寄せた。

それから二人は何も言わなくなり、辺りは夜の静寂に包まれた。
水面に小さく立つさざなみの音がやけに大きく聞こえる。

「彼女は君の何なんだ」

しばらくしてコウが口を開いた。
その声はレアに問うたときと同じでとても静かである。
ホタルは依然背を向けたままでいるコウを見据え、きっぱりと答えた。

「私にとっても、お嬢は大切な人です」

大切な人。
レアも自分のことをそう言ってくれた。嬉しかった。嬉しすぎて飛び起きてそのまま抱きつこうかと思った。
けど。
相手と自分の『大切』は、きっと少し意味が違う。

金糸のような細い髪を揺らしながら、コウがゆっくりと振り向いた。
その端正な顔にはどこか憂えているような表情が張りついている。

「その大切な人を縛る権利が、君にあるのか?」

聞かれてホタルの動きが止まった。
金色の瞳が一瞬揺らぐ。

「部外者が口出ししないで」

ホタルは走る動揺をかき消すかのように声を張った。

この大切にしたいと思う気持ちが行き過ぎていることはわかってる。わかってるんだ、そんなことは。
でも、こうしないとレアを守ることが出来ない。

ホタルを見つめていたコウの表情が次第に真剣みを帯びていく。

「部外者から見ても君の過保護っぷりが彼女を潰している事は明らかだ。
もっとも、彼女自身はその事に気づいていないのかもしれないが」

何も知らないのにしゃあしゃあと。
それでも事実を言い当てていることが余計に気に食わない。
こいつ、本当に気に食わない。

「少なくともレアは外の世界に興味を持っている。
本当に大切に思っているなら、もっと彼女の意思を尊重するべきではないのか?」

最終的に決めるのは彼女だがとコウが言うのを遮って、ホタルが腰に差した愛刀を抜き払った。
これ以上何も言うなといわんばかりにコウを睨みつける。

「あんたはお嬢のためにならない」

その声は夜風に吸い込まれそうなくらい小さかった。
一歩、また一歩とゆっくり近づいてくるホタルを、コウはただ静かに見ていた。







「死んでもらいます」

握り返した刀が月光を受けて白く煌めいた。


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決闘

久遠です。

スピーディーな展開、ご馳走様です。
試すように惑わすように語るコウ、彼に対して反感を抱くホタル。
籠の中の鳥発言されちゃったレアではあるものの、籠の中の鳥は外界で生きられのだろうかとか色々と考えちゃいます。
レアは羽ばたけるのかな。
次回も楽しみです☆
[ 2010/01/10 21:40 ] [ 編集 ]

>>久遠さん

お互い依存しあって小さい世界の中だけで生きるのってどうなのさ?と問題提起しただけで決闘申し込まれるなんて、コウにしたらいい迷惑ですね(ノ∀`)
更新がちょースローペースですが、レアが羽ばたけるかどうかをよかったらまた見に来てやってください^^
[ 2010/01/11 22:50 ] [ 編集 ]

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