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第6話 ゴブリン騒動 前編









緩やかな坂道を下った先に架かっている石橋。
そのたもとに小さな砦がひっそりとたたずんでおり、そこには革や毛皮で出来た鎧をまとった男女がそれぞれ武器を携えて辺りを警戒している。

あれは――







「ねぇ、コウ! あれって追い剥ぎよねっ?」

以前宿屋でコウが話してくれた『橋の架かっているところでは大抵追い剥ぎが待ち伏せしている』という話のとおり、シェイディンハルに向かう道の途中の橋のたもとで本当に追い剥ぎが待ち伏せていたのだ。
これでまた世界を一つ知ることができた。

嬉々として振り返る私に、コウはあぁそうだと頷いてから苦笑を浮かべる。

「レア、とりあえず剣を抜かないか?」

言いながら抜刀するコウの視線の先には、私たちの存在に気づき武器を片手にこちらに駆けて来る追い剥ぎたちがいた。







冷めやらぬ興奮を抑えながら剣の柄に手をかけた私だったが、そこで動きが止まってしまう。
ダークファザムの洞窟でスキャンプを斬ったときに味わった、あの肉と骨を断つ感覚を思い出したからだ。

危害を加えようとするものと遭遇することは冒険者として避けては通れない道で、斬らなければ自分が殺されてしまうことはわかっている。
出くわした敵は全てコウに任せて自分の手は一切汚さないなんてそんなことはありえないし、たとえコウがそれを承諾したとしても甘えるつもりもない。
それなら、私が今やるべきことはただ一つだ。

――これが、私の選んだ道。

自分にそう言い聞かせた私は剣を抜き払って前を見据えた。

相手は男女の二人組で女が斧、男が弓を装備している。
女は斧を力の限り振りまわして攻め込み、コウはそれをいとも簡単にさばいていく。
その少し先で、弓を引き絞る男がコウを狙っているのが見えた。







――そうはさせない!

私は地を蹴って激しく打ち合っている二人の脇を通り抜けた。
一撃で仕留めようとしていたのか、狙いを定めることに集中していた男は駆けて来る私に気づくのが少し遅れたようで、慌てて私に照準を合わせたがそれでも遅かった。
勢いよく振り下ろした剣の切っ先は男の大腿部をかすめ、男は低く呻きながら体勢を崩す。
肉を裂く感触に顔を歪めつつ、片膝をついた男が矢を放つより先に斬り上げれば、日の光を浴びて一層煌めく大剣が男の脇腹から肩に向かって金色の軌跡を描く。
男は血煙を上げて仰向け様に倒れ、放たれた矢の軌道は大きく逸れて街道沿いに植わっている木に突き刺さった。

コウのほうを見やると、すでに血払いを終えて刀を納めているところだった。
足元には斧を握りしめたままの女が倒れている。







終わった。
ほっと一息つくと張り詰めていた神経が緩み、途端にどっと疲れが襲ってきた。
これだけは慣れそうにない。
苦虫を噛み潰したような顔をしながら血払いをしていると、不意に頭を撫でられた。
見ればコウが微笑んでいる。

「助かった、ありがとう」

弓に狙われていたことを知っていたらしい。
コウならあの状況でも一人で切り抜けられていた気がするが、少しでも役に立てたんだと思うと嬉しかった。
微笑み返しながら頷く私の頭を再度撫でたコウは行こうと言って歩き出した。













そっと頭部に触れてみる。
そこにはコウの大きな手の温もりがわずかに残っていた。
それを確かめるように何度か触っていると、なんだか急に恥ずかしくなってきて、私は一人頬を赤らめながら剣を背負いなおして彼の後を追った。












山賊の残党がいないかと注意を払いながら進んでいた私たちは、橋を渡り切ったところで足を止めた。
街道の脇に広がる原っぱに野営地を見つけたのだ。
私たちはそれぞれ素早く柄に手をかける。
そして慎重に近づき、植木の陰から野営地の様子を窺った。







するとそこには年老いた男と丸顔の男、そして色白の娘がいるだけだった。
一見すると、ただ野宿をしている家族のようである。

「…賊ではなさそうだな」

しばらく様子を見ていたコウはそう言って柄から手を離し、続いて私も戦闘態勢を解く。
そしてこの場所から立ち去ろうと踵を返すと、私たちのすぐ後ろに縮らせた髪を束ねている女が一人立っていた。







「あんたたち、そこで何やってんだい?」

その言葉と視線は鋭く、今にも飛び掛ってきそうな気迫さえ感じられる。

「わ、私たち、怪しい者じゃないです」

私は慌てて否定したが、自分で『怪しい者じゃない』と言う人間が怪しくないわけがないと、言ったあとで思った。
案の定、女も怪訝そうに私を見ている。

するとコウがさりげなく前に進み出て、私をかばう…というより、私にこれ以上しゃべらせないようにして私と女の間に立った。
私が何か言えば余計に誤解を招くだろう。黙って控えておくことにした。
その様子を見たコウは私にやんわりと微笑みかけ、次いで女のほうに向き直る。

「先程賊に襲われてな。そんな折にこの野営地を見つけたものだから、まだ奴らの仲間がいるんじゃないかと警戒していたんだ」

女は端的なコウの説明に納得したようで、さほど疑う様子もなくなるほどと頷いた。

「そうだったの。お互い大変だね」

「『お互い』?」

何か厄介ごとに巻き込まれているのだろうか。

私が聞き返すと、女はため息混じりで自嘲気味に笑んだ。







するとキャンプのほうから何かあったのかと声がして、年老いた男たちが心配そうにこちらを窺っていた。
女が大丈夫だと手で合図をすると彼らは安心したようで、焚き火で暖まったり料理を再開したりとそれぞれ好きなことをし始める。
そんな彼らを見つめる女の目は寂しげだった。

「あの人たちは、ハイロックからの移住者なんだ。
…あ、紹介が遅れたね。あたしはミリサ。あの人たちに雇われた傭兵だよ」

そう言ってミリサは手を差し出した。
その手にはところどころに剣だこが出来ており、日々修練していることが窺い知れる。

ハイロックはシロディールの北西に位置する地域で、主にブレトンが住んでいると本で読んだことがある。

私たちと順に握手を交わしたミリサは野営地に目を移した。

「彼らはシロディールで新しい生活を始めようと、全財産をはたいて政府から土地を買ったらしい」

まるで哀れむような目で移住者たちの様子を見ていたミリサだったが、次第にその顔がみるみる険しくなっていく。

「でもその土地っていうのが、ゴブリンたちの縄張りだったんだ。
もちろん、彼らはそんなこと知らされていない。
新しい土地に住み始めてすぐにゴブリンたちの小競り合いに巻き込まれて、危うく殺されかけたんだよ」

政府は腐っているとミリサは憤慨した。
シロディールに移住するにあたり、ガイドとして雇われたミリサが彼らを助け出してここに避難させたらしい。







ミリサによると、ゴブリンはシャーマンと呼ばれる頭を筆頭に群れを成し、部族ごとに洞窟や遺跡に棲みついているという。







「政府から買った土地…クロップスフォードっていうんだけど、そこを挟むようにして南北に二部族の洞窟があって、その二部族間で戦争が勃発しているんだ」

「それで通り道にあるクロップスフォードが戦火に見舞われたという事か」

「そういうこと。
ゴブリンは縄張り意識が強くて、テリトリーに入ったものは容赦なく排除する習性があるんだけど、普段は自分たちの洞窟周辺に留まっているだけで自ら侵攻することは滅多にないんだ。
だけどこんなに戦争が長引くなんて、よっぽどの理由があるとしか考えられない。それであたしは何度か偵察してみたんだ」

そこまで一気に話したミリサは一呼吸おき、私たちを交互に見て再び口を開いた。

「あいつら、『頭』を取り合ってるみたいなんだよ」

「あたま…? シャーマンのこと?」

美しい姫を巡って戦争が起きるいったおとぎ話はよくあるが、今回の騒動もそれらと同じような類のものなのだろうか?
私が首をかしげていると、ミリサが首を横に振った。

「違う。頭は頭」

そう言ったミリサは自分のこめかみをとんとんと人差し指で叩いてみせる。







――それって、生首ってこと!?

驚愕の事実にたどり着きぎょっとする私を見て、ミリサはにやりと口の端を持ち上げた。
どうやら正解だったらしいが、当たってもあまり嬉しくない。

部族はそれぞれ頭部を守っていて、それは彼らにとってとても神聖なものらしい。
そしてその頭部を片方の部族が奪い取ったことで戦争が起きたとミリサは読んでいるそうだ。

部族を率いる長がいたりシャーマニズム的なものがあるというゴブリンの文化に感心したものの、生首が衝撃的過ぎてミリサの話があまり頭に入ってこなかった。

ミリサの説明を顎に手をやって聞いていたコウがふと口を開く。

「ゴブリンの生態に精通していて剣も扱える君が手出し出来ていないという事は、よっぽど数が多いのか?」

「あぁ、とても一人で相手出来るような数じゃない」

そう言って険しい顔をしているミリサの腕に包帯が巻かれているのがちらりと見えた。
彼女は何とかしようと手は出したのかもしれない。
だが、単身ではどうすることも出来なかったのだろう。







ミリサは顔を上げ、真剣な面持ちで私たちを交互に見た。

「お嬢ちゃんは…まぁよくわかんないけど、見たところ、あんたは腕が立ちそうだね」

言われてコウはまぁそれなりにとかすかに笑う。
対して『よくわからない』と言われた私は肩を落とした。
強くないし頼りないのは事実だが、はっきり言われると少しショックだ。
不貞腐れたように唇を尖らす私に笑って詫びたミリサは、改めて私たちのほうに向き直った。

「ねぇ、よかったら手を貸してくれない? もちろん、お礼はするよ」

「そうだな…どうする?」

コウに聞かれて私はすぐに頷いた。

「助けてあげたいな」

新天地での生活を夢見て遠路はるばるやって来たのに、欲に眩んだ人間に騙されて路頭に迷うなんてあまりにもひどい話だ。
私に出来ることがあれば力になりたいし、何より人のために身を挺して頑張っているミリサの姿に惹かれた。

「ありがとう、恩に着るよ」

言ってミリサは安堵の表情を浮かべた。
ふっくらとした唇から覗く白い歯が褐色の肌によく映える。

再び目に鋭い光を宿したミリサは、顔の前で人差し指と中指を立てた。

「戦争を止める方法は二つ。
一つは南の部族から頭部を盗み出して元の部族に返すこと。
そしてもう一つは、北の部族のシャーマンを殺すこと」

北側のゴブリン集団が一方的に攻め入っているので、ミリサは南の部族が北の部族の頭部を盗んだと踏んでいるらしい。
一方、部族を率いているシャーマンがいなくなれば統率が取れなくなって部隊は鎮静化し、自然と戦争が終わるということだそうだ。

どちらにしてもゴブリンが大量にいる根城に潜入しなければならないので危険なことに変わりはないが、被害が最小限で済むよう隠密に頭部を盗み出すことにした。

要は見つからなければいいのだ。

…なんて思っていたが、自分がドジなことを思い出して少し不安になるのだった。


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