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第3話 剣を振るうは誰が為

夜の帳に包まれた波止場地区の静寂を、剣戟の響きが切り裂いた。







ホタルの太刀筋は卓越していた。
主人を守るために日頃から鍛えていたとしても、常人がこれほどまでの剣の腕と身のこなしの軽さを有するとは考えにくい。

「君は…何者だ」

ホタルが普通のメイドではないと悟ったコウは、鋭く斬り込んでくるホタルの攻撃を受け流しながら問うた。

「それは、こっちのセリフよ!」

言うと同時に右から左に大きく薙ぐ。
コウは後ろに飛び退いてこれを回避したが、その動きを読んでいたのか、ホタルはすぐに踏み込み手首を返して斬り上げる。
空中で身動きの取れないコウは上半身を後ろに傾けて寸でのところで避けたが、刀の切っ先が髪をかすった。切られたブロンズグレイの髪が数本舞う。

ホタルは強い。
しかしそんなホタルと互角にやり合っているコウもまた相当の手練れであることは明確だった。

舌打ちをしたホタルは刀を握り返すと、体勢を立て直したコウを忌々しげに見た。

「何故攻めてこないの」

ホタルは苛立っていた。
すでに数十は打ち合っているのだが、コウは攻撃を防ぐことはしても一度も攻勢に転じることはなかったからだ。
そしてこれだけ激しくやりあっているのに、呼吸が全く乱れていない。
自分と同様に大層修練を積んでいるのだと思うと不愉快で仕方がなかった。

聞かれてコウはうーんと短く唸り、困ったように眉間を曇らせる。

「私には君と戦う理由がない」

挑発しているわけではなく本心で言っているようだが、どこか余裕を感じさせるその様子にホタルは一層苛立った。
たしかに一方的に仕掛けたのはこちらだが、これでは埒が明かない。
それに、体力に自信があるとはいえ攻め続けている自分の方が体力を消耗しているだろうから、この状態が長引けば明らかにこちらの分が悪くなる。
もしかしたらその機会を窺っているのだろうか。

――小癪な奴め。

再び舌打ちをし、素早く地を蹴る。

その後もホタルは果敢に攻め込むが、やはりコウは守りに徹するだけで。







振り下ろされた刃をひらりと身をひねってかわしたコウが、ふと何かを思いついたといった風にそうだと呟いた。

「賭けをしないか? そうすれば私にも理由が出来る」

次いで飛んできた猛撃を振り向き様に受け流し、何食わぬ顔をしているコウの突然の提案にホタルは怪訝そうに眉をひそめた。

「私は自分の命を賭けて、君は彼女の自由を賭ける。
彼女が今まで通り君の傍にいたいと言うのなら、それもまた彼女の自由だ。私は何も言わない」

「どうしてそこまでお嬢に執心する!」

袈裟懸けに強烈な一撃を見舞うもあっさり受け止められてしまい、そのまま鍔迫り合いにもつれ込んだ。
その小さな体のどこにそんな力があるのかと思うほどの腕力で押し返してくるホタルを刀越しに見たコウが、ゆっくりと口を開く。

「言っただろう。籠の鳥は逃がしたくなるんだ」

そう言ってほんの一瞬寂しげに揺れる深緑の瞳。
その瞳にホタルは見覚えがあった。







――もし”あの方”が生きていて、自分が今戦っているのが”あの方”本人なら。













――…あり得ない。

雑念を振り払うようにぎゅっと目を瞑ったホタルはすぐに目を見開いた。
すぐさま膝蹴りを繰り出せば重なり合っていた金属が離れ、さらに回し蹴りで追撃をかけるとコウは数歩下がって距離をとる。

「どうする。乗るか?」

美術品のように美しい刀を軽く握り返したコウはそう言ってわずかに微笑んだ。

わかった。
何故見ているだけでこんなに腹が立ってくるのか。
この男が”同じ顔”をしているからだ。

ホタルはふん、と嘲るように鼻を鳴らした。

「そんな誘いを持ちかけてきたこと、後悔すればいいわ!」

ホタルは刀を強く握り、再び一撃を浴びせるためにコウの懐めがけて駆ける。
斬れるところまで間合いを詰め大きく振りかぶったとき、コウが左半身を軽く引いて腰を落とした。







まずい。

ホタルは直感的にそう思った。
しかしそのときにはすでに刀を振り下ろしていた。

コウは手首を返して白刃を構えると、弧を描くように振り抜いた。
ホタルは咄嗟に防御態勢をとったが、本来の力を十分に発揮出来るはずもなく、コウの一撃を防ぎきることが出来なかった。
甲高い金属音が紺碧の空に鳴り響く。
痺れを感じたその手には得物が握られていなかった。

「安心しろ」

頭上で声がして、ホタルは弾かれたように顔を上げる。
それと同時に鈍い音が耳に届き、腹部に強い衝撃が走ったかと思うと、急に息が出来なくなった。
何が起こったのかわからず、ホタルは眼前にあるコウの顔をただただ見ていた。

「彼女が世界を見たいと言ったときは、私が君に代わって彼女を守ろう」

憂えたような、それでいて強い光を放っている深緑色の瞳には、象牙の彫刻のような美しい柄を鳩尾に叩き込まれている自分の姿が映っていた。

――ああ、私は、負けたのか。

自分の敗北を認識したホタルは、その場に崩れ落ちた。


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